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名古屋高等裁判所 昭和56年(行コ)20号 判決 1982年5月24日

名古屋市中区丸の内一丁目一四番一八号

控訴人(一審原告)

東亜産業株式会社

右代表者代表取締役

坂野勝憲

名古屋市中区三の丸三丁目三番二号

被控訴人(一審被告)

名古屋中税務署長

宮部順一

右指定代理人

山野井勇作

木村亘

井奈波秀雄

岡島譲

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和五二年一二月二三日付でなした控訴人の昭和五〇年三月一日から昭和五一年二月二九日までの事業年度分法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(但し、いずれも昭和五三年四月二日付異議決定で取消された分を除く。)を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、左に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決一九枚目裏四行目に「第六号証」とあるのを「第五号証」と訂正する。)。

(控訴人の主張)

一  控訴人は東亜荘の敷地につき借地権を有していなかつた。東亜荘はもと製材工場員の寄宿舎として仮設し、工場閉鎖後にアパートに改造したものであつて、最初からアパート経営が目的ではなかつたから、控訴人は、同族会社の常として、右敷地の所有者である訴外坂野勝憲との間に、何ら土地賃貸借契約を締結していなかつた。もし、控訴人が右敷地につき借地権を有しておれば、控訴人としては、当然これを国鉄側に示して、東亜荘の移転補償費の増額を要求したものである。

二  右東亜荘入居者への立退料二〇二八万円は、控訴人が国鉄からの助成金中より支払つたものである(甲第一三号証)。

三  本件助成金については、租税特別措置法(以下、「措置法」という。)六五条の二に規定する三〇〇〇万円の特別控除をなすべきものであり、名古屋国税局係官も何ら反対意見を提示していない(甲第一九号証)。また、昭和三六年七月二〇日付国税庁長官通達(甲第二一号証)によれば、資産の譲渡代金の全部が債務の弁済に当てられたときは、その資産にかかる譲渡所得については、当分の間、課税しないことに取扱う、とあるが、控訴人は資産の譲渡所得たる本件助成金を全部その債務の弁済に当てたから、右助成金に対する本件課税は違法である。

(被控訴人の主張)

控訴人の右各主張は争う。

(証拠)

控訴人は、甲第二〇、第二一号証、第二二号証の一ないし三、第二三、第二四号証を提出した。

被控訴人は、甲第二〇号証の成立は不知、その余の右甲号各証の成立(甲第二一、第二三号証は原本の存在も)は認めると述べた。

理由

一  当裁判所も控訴人の本訴請求は失当と認めるものであつて、その理由は、次に付加するほか、原判決理由に説示のとおりであるから、これを引用する。

1  借地権譲渡代金二九二八万〇〇〇二円の益金加算について

控訴人が東亜荘の敷地につき、その所有者である訴外坂野勝憲との間に形式上賃貸借契約を締結しておらず、従つて賃料も支払つていなかつたからといつて、控訴人の右敷地の使用関係を通常の使用貸借関係と見るのは相当ではない。けだし、本件土地は右訴外人の所有であつたところ、同訴外人は控訴会社の代表取締役であり、しかも控訴会社は同訴外人一族の同族会社であつたから、このような事情の下においては、控訴会社が同訴外人によつて経営されている限り、同訴外人が控訴会社に対し右敷地の明渡を求める可能性はほとんど考えられなかつたもので、賃貸借契約が締結されていなくとも、控訴会社の右敷地使用権は通常の使用貸借上の権利とは異なる権利性の強いものであつたと認めるのが相当である。また、控訴会社が賃料を支払つていなくとも、控訴会社が該敷地を使用して事業を遂行し営業利益をあげることによつて、同訴外人も土地提供者として賃料に代値されるともいえる利益の還元を期待しうる経済的関係に立つていたことも否定しえない。かかる実体に照らすと、右敷地の使用関係の性質・内容は、通常の使用貸借とは異なる権利関係と見るのが相当であり、いわば借地権・地上権類似の権利関係と認めるのが相当である。

そして、右訴外坂野勝憲が昭和五〇年分の所得税の確定申告に当たり、本件土地売却代金による長期譲渡所得収入金額につき、これを右売却代金の六〇パーセントに当たる五二三一万七八〇七円と申告したことに鑑みると、右訴外人は、当時本件土地上に存した各建物の所有者であつた控訴人及び坂野久子の該建物敷地の占有使用関係につき、通常の使用貸借とは異なるところの前記の如き権利性を認め、本件土地売却代金中その四〇パーセントに当たる三四八七万八五三八円を、右両者の国鉄に対する右権利譲渡に伴う収入金として容認していたものと認めるのが相当である。

しかして、成立に争いのない乙第四八号証の一ないし五を参斟すると、右権利譲渡の対価を右売却代金の四〇パーセントとすることは相当である。

控訴人は、右東亜荘の敷地につき借地権を有していれば当然これを国鉄に示して移転補償費の増額を要求したものである旨主張するが、成立に争いのない乙第四九号証の一・二、第五〇号証の一ないし五と弁論の全趣旨に徴すると、本件土地の前記売却代金は更地価額であると推認されるので、右代金中には控訴人及び坂野久子の各敷地使用権についての対価も含まれていることになるから、控訴人の右主張は採り上げるに由ない。

2  立退転居料二〇二八万円の損金不算入について

右金員は、国鉄が、上記東亜荘居住者との間の移転契約助成契約に基づき同居住者に対し支払つたものであり、甲第一三号証が右認定を左右するものでないことは、前記引用にかかる原判決理由二の2に説示のとおりであるから、この点に関する控訴人の主張は理由がない。

3  三〇〇〇万円の特別控除の不適用について

控訴人は、甲第一九号証によれば名古屋国税局係官も措置法六五条の二の適用につき何ら反対の意見を提示していない旨主張するが、原審における控訴人代表者の尋問の結果及び成立に争いのない乙第五二号証によれば、右甲第一九号証中の控訴人の主張に添う部分の記載は、名古屋国税局係官が、控訴人から本件土地が新幹線用地として収用されたものである旨の、事実とは異なる説明を受け、この説明を前提としてなされたものにすぎないことが窺われるので、右記載をもつてしてはもとより控訴人の本主張を維持しうるものではない。

また、控訴人指摘の通達(甲第二一号証)は、他人の債務の担保に提供されていた資産が同担保の実行により譲渡された場合の所得税等についての取扱いに関する通達であつて、本件の場合とは何ら関わりがないものである。

二、以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷卓男 裁判官 寺本栄一 裁判官 三関幸男)

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